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僕はオカルトを信じない。 よくドラッグユーザーの中には病的にスピリチュアルにハマる人やニューエイジ思想や宗教の虜になる人がいるが、彼らは現実に目を背ける臆病者だと思っている。よく「薬物の使用によって感覚が研ぎ澄まされ、第六感が目覚める」とか「覚醒剤ユーザーは幽霊を引き寄せる」みたいなことがまことしやかに囁かれているが、ほとんどはドラッグの使用によって幻覚を見たり被暗示性が高まっているせいだと思う。 僕も乱用者だった20代前半の頃に何度か不可解な現象に出会ったことがあるが、そのほとんどが思い込みに類するものだと思っている。が、どうしてもそれだけでは納得がいかない出来事がひとつだけあった。 20歳頃のこと。大学の夏休みで帰省した際は友人たちと福岡の某山に夜景を観に行くのにハマっていた。その山は標高が1000m近くて、夜景スポットに着くまでの道のりは街灯の無い真っ暗な山道を延々と進まねばならず、しかもすれ違いが出来ないほど細いワインディングが続く。頂上の展望台ではシンナーを吸ってるヤンキーがたむろしていることもあるため、まともな人はほとんど近寄らない穴場だ。当時つき合っていた彼女を連れて行こうとした際も彼女が真っ暗な山道が続くのを怖がったため結局途中で行くのを諦めたほど、まぁ深山幽谷といって差し支えない場所だ。山の頂上には木造の展望台があり、その横にミカン箱サイズの小さな祠がひっそりと安置してある。僕らはいちおうその祠に手を合わせてから展望台に昇るようにしていた。展望台に昇ると背後には修験場として有名な山々が真っ黒に染まって聳え、前には博多から遠く佐賀まで見渡すことができる。人はほとんど来ない。聞こえてくるのは山を渡る風のそよぎだけ。そんなナイスセッティングな場所なので、単に夜景を眺めるだけでなく、スピーカーやジャグリングなどの道具とともにジョイントを持っていくのが仲間うちのお決まりだった。 その日は夏なのに肌寒い夜だった。いつものように展望台で友人と一服していると、雲のなかに入ったのか、夜景はおろか自分のつま先すら見えないほど濃い霧に包まれてしまった。山深い土地なので霧が出たことはこれまでも何度かあったのだが、あれほどの密度と質量を持った霧ははじめての経験だった。展望台は5m四方程度の小さなものだったが、対角線状にいるはずの友人が霧に包まれて全く見えないのだ。まるで牛乳のようなみっしりとした霧に包まれ、Tシャツがしっとりと濡れるほど潤いを含んだ空気は、いつもより肺の奥にまで届くような気がした。真っ暗なのに真っ白という不思議は空間はTHCに酔った僕たちを興奮させるには充分な舞台装置で、友人と一緒に「スゲー!!スゲー!!」と言い合った。ひとしきり騒いで飽きると「まったくなんにも見えなくなったねー」なんて言いながら暫く博多方面を向いてベンチに腰掛けていたのだが、なんとなく視線を感じたような気がして後ろを振り返った。霧が晴れていれば山が聳えているあたりは霧に包まれて一面真っ白なキャンバスと化していたが、その白の中にも微妙な濃淡があってとても美しい。霧の流れていくに従って形を変えるその模様に見とれていると、徐々に意思を持っているかのように濃淡がうつろいはじめ、何かを形作りはじめた。まるでサンドアートの様に濃淡が滑らかにうつり変わり、あっと言う間に巨大な不動明王の顔が浮かび上がった。たぶん僕はあっけにとられてポカンと見上げるだけだったと思う。不思議と恐怖感は無かった。 霧の中に浮かび上がった不動明王は曼荼羅のような2Dとも仏像の3Dとも違う、2.5Dといった感じの奥行き感で、今から思い出すとなんとなく磨崖仏のような感じだった。時間にして10秒とか20秒ぐらいのものだろうか、すぐに消えてなくなったのだが何だかありがたいものを見たに違いないと思い、手を合わせた。 今までずっと、霧のせいで視覚を遮断されたため幻覚を見たのだろうとか、「修験道や密教では修行の際に大麻を使う」という噂を耳にしていたため自己暗示に掛かったのだろうとか、適当に理由をつけて自分のなかで納得していた。当時の事をたまたま思い出したので、ブログの題材にでもしようと思ってネットでその山について検索してみたところ、「某山の頂上には不動明王の石祠が祀られており云々」と言う一文を発見した。いつも手を合わせていたあの祠は、不動明王を祀っていたらしい。もちろん当時、その山の頂上で不動明王が祀られていたことは知らなかった……ひょっとしてあれ、マジだったのかな。 |
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